月下上海 山口恵以子

舞台は戦時下の上海。時代も場所も小説の題材として好物で楽しく読みました。松本清張賞受賞作ということで社会派かと思いきや描かれる多江子の人生は恋愛、スキャンダル、弱みを握られスパイをやらされる...といかにも昼ドラあるいは昔の少女漫画的。物語もサクサクと展開が早く、社会派として何かを訴えたいとか文学的感動を、というよりはキャラと物語でグイグイ読ませる私の中でのジャンル分けでは娯楽小説に属する作品でした。

多江子は男性作家に描かせたら時代の渦に翻弄された悲劇のヒロインといった体のそらぞらしい人物像になりそうな設定、物語の筋立て。その点さすが女性の筆。迷いとか欲望とか打算と本能のバランスが自然で男性が女性を描いた時の様な気持ち悪さがないのが良い。最後こういう人生を歩むことになる多江子だけど、男性作家だったらおそらく最後は自殺させちゃいそう。そうじゃないのよ。ここでこうやって受け入れるところは受け入れるのがしたたかな女の強さだと思いますよ。私は。やっぱり女性主人公は女性作家が描いた方がいいなあ。

夏先生の良さがいまいち伝わってこなくて残念。槙とか一瞬かくまうことになる学生さん(名前忘れた)の方に魅力を感じてしまったよ。

星3.7個。