世界の終わり、あるいは始まり 歌野晶午

 最初の数ページから引き込まれます。物語に入ってゆくのに労を要
しませんでした。小学生の息子が犯罪に関与しているのではないか、
という事に気付いてしまった父親の苦悩と逡巡の物語です。終わり方
がすっきりしない、とか消化不良、という書評をいくつか見かけまし
たが、私はすっきり納得しましたよ。そのあとどうするかまでは直接
言葉では書かれていませんが、父親がどういう決心をしたのかはきち
んと作者が意図した通りに読み取れる様に描かれていたと思います。

 デビュー作からみるとケタ違いに良くなっています。同じ人が書い
たものかしら?と思った程。「長い家」だけで諦めなくて良かった。
まだこの時点で五つ星をつけるまではいっていませんが、これだけ良
くなったなら、今後もっと良くなるかな?と期待も出来るので、今後
の動向も見守ってゆきたいと思います。デビューしたものの、後が続
かない人とか、最初の勢いが落ちていっちゃう人とかいますが、歌野
氏はデビューしたことが結果ではなくあくまで始まりだときちんと認
識して精力的に作風を模索、展開しておられる様に感じました。年月
とともに変わったのではなく、意図的に変えているのが読み取れます。
その姿勢にとても好感が持てました。
星3.5。