カブキの日 小林恭二

 こりゃ驚いた!

 歌舞伎がテーマの小説ということで、明治大正昭和位のちょっと昔のお話かも
しくは現代の歌舞伎界を舞台にしたものだと思って読み始めたのですが、どうも
雰囲気が妙。運河縁に建つ世界座という劇場は幻想的だし少女蕪はフード付きの
マントを被りホテルマンに出迎えられる。どうやら21世紀のカブキ界、歌舞伎で
はなくあくまでカブキ、異世界のカブキという事の様です。

 美貌の若衆月彦に連れられて世界座の奥深くへと入って行く少女蕪の冒険譚。
うっかり入ったら出て来られない魔窟だという噂のある三階はゲーム『クーロン
ズ・ゲート』の天堂劇場の様な、あるいは小説『竹馬男の犯罪』のサーカス団の
内部の様な、ゴシックモダンでサイケデリックな感じがしてとても好きな世界観
でした。給食所での食事シーンもなんとも美味しそうだし、冒険の過程も月彦と
蕪の行き着く先に待ち受ける使命も本当に面白かった。傑作。

 星4.1個。

 考えてみると歌舞伎がテーマになった小説にハズレってないなあ。