賢者はベンチで思索する 近藤史恵

 近藤史恵の得意ジャンルですね。動物虐待という心に痛みをちく
ちく感じる事件。謎を追うフリーターの女の子と彼女を取り巻く謎
めいた老人や引きこもりの弟といういかにも現代的な人物象設定。

 哀しい事件や痛い動機の近藤作品に触れるたび、近藤史恵は細や
かで人の気持ちの機微に敏感な人なんだろうな。と漠然と思ってい
ましたが、本作を読んで「案外シニカルな作風でもイケルるんじゃ
ない?」と思いました。語り口がクールなせいでしょうか。
なんだか哀しい、痛い物語を書いてもウエットじゃないんですよ。
物語と作者にほどほどの距離感がある。そのあたりが「泣かせ系」
嫌いの私でもスルっと読めてしまう所以なんだと思いました。

 星3つ。